Research Abstract |
自然発症糖尿病ラットWBN/Kob(膵性糖尿病モデル)を用いて以下の検討を行った.使用したWBN/Kobラットは糖尿病発症前6カ月齢と発症後15カ月齢で,15カ月齢では有意差をもって蛋白尿の増加,血糖値の上昇を認めた. 1.形態観察 6カ月齢に比較して15カ月齢では,糸球体,メサンギウム面積は有意差をもって拡大していたが,糸球体上皮細胞面積は拡大傾向を認めなかった.超微形態観察では,15カ月齢での糸球体上皮細胞における細胞内小器官は,機能障害を疑わせる像が存在した.更に障害が進行すると,糸球体上皮細胞の基底膜からの剥離が観察され,その基底膜をボウマン嚢上皮細胞が被覆し癒着病変を形成していた.この癒着病変は,その後の糸球体硬化病変形成と密接に関係していた. 2.ポリオール代謝 Sieving法により単離した糸球体においては,6カ月齢に比較して15カ月齢では,血糖値に比例してSorbitolの上昇が観察された.一方,Myo-inositolはラット間の個体差が目立ち一定の傾向を認めない..糸球体内ではメサンギウムと糸球体上皮細胞に,ポリオール代謝の律速酵素のaldose還元酵素が存在するが,今回のポリオール代謝と形態(面積の拡大)の検討では,両細胞の反応差が認められた.更に同ラットの坐骨神経での検討では,6カ月齢に比較して15カ月齢ではSorbitolの上昇,Myo-inositolの低下が観察された.したがって,糸球体と末梢神経でのポリオール代謝の違いも推測された. 3.今後の展開 以前から不可逆的糸球体硬化のtriggerとして糸球体上皮細胞の基底膜からの剥離現象に注目してきた.今回の結果から,糖尿病腎症進行過程での,糸球体上皮細胞とメサンギウム細胞と異なる細胞内代謝障害の存在が示唆され,今後,糸球体上皮細胞の細胞内代謝障害,それと関連して変性,老化現象に注目する.
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