Research Abstract |
従来,開心術においては低体温手術が原則であり,低体温体外循環のもと,低温心筋虚血による心筋保護がおこなわれてきた.本研究の目的は,心筋代謝を維持しつつ心停止をおこなう方法(warm blood cardioplegia)の心筋保護効果を実験的に検討し,さらに,常温手術(warm heart surgery)の可能性をさぐることである. 【実験方法】実験モデルとして雑種成犬による交差体外循環モデルを作製し(support犬の総頸動脈よりrecipient犬の上行大動脈に送血し,recipient犬の上下大動脈よりsupport犬の外頸静脈に返血),心停止後の心機能の回復を中心として心筋保護効果を検討した. 【結果】warm blood cardioplegiaによる持続灌流では,心機能の回復が得られなかった.原因を考えるに,心筋保護液中の電解質組成に問題があるのではないかと考えた.今回使用した心筋保護液は低温実験の際に用いた心筋保護液であり,ほとんどCaが含まれていないものである.低温実験においてはまったく問題はなかったのでwarm cardioplegiaとして今回の実験に使用したのであるが,これに原因があるのではないかと考えた.そこでラットの摘出心灌流モデルを用い,warm cardioplegiaの電解質組成について検討した.Ca濃度は,1.0mMをpeakとするbell-shapedcurveを描き,Ca濃度が0.5mM以の低濃度ではCa-paradoxにより,心機能の回復が得られなかった.warm cardioplegiaにおいて,Ca濃度は生理的レベルに維持する必要があった.cold cardioplegiaにおいては,その電解質組成による心筋保護効果にあまり違いがみられないが,warm cardioplegiaでは,電解質組成が心筋保護効果に与える影響が大きく,今後この予備実験をもとに,至適電解質組成による本実験を継続するつもりである.
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