Research Abstract |
まず,携帯用溶接器と,我々の考案したラット用溶接ヒューム吸入装置を用いて,ラットに溶接ヒュームを1日3時間,週3回の割合で3-4カ月間吸入させた。経過中の血清鉄,U1BC,フェリチン,Free ironなどを測定するとともに,少数のラットを1カ月毎に経時的に屠殺しながら腎,肺などの組織の変化を各種染色法により観察した。吸入による暴露はintensityを極端にあげることは困難であるが,一時間の吸入でもラット全例に肺胞やマクロファージに鉄の強い沈着を認めた。また,吸入開始2カ月以降の一部のラットにおいて,腎尿細管の内側に鉄の沈着や再生像を認め,吸入期間が長くなるほどその程度は強くなっていたが発癌に至ったものはなかった。また,本学の病理学教室教授である岡田らはキレート鉄であるferricnitrilotriacetateの長期的な腹腔内投与によりラットやマウスに腎細胞癌が高率に発生することを報告し,それがfree ironを介した腎の脂質過酸化によるものであることを示し,発癌に至る組織学的検討が十分になされているが,今回の我々の実験により惹起された腎の組織学的変化は岡田らの系の初期段階の変化と類似していた。またそれぞれのラットにおいて,2週間おきに血清を採取し,血清鉄,U1BC,フェリチン,Free ironを測定したが明かな変化は認められなかった。現在,ラットに対して,ひきつづき長期の溶接ヒューム吸入実験を行っており,腎の組織学的変化や沈着した鉄の局在について検討していく予定であり,その他に,免疫組織学的にTGFの発現や,組織中のフェリチン量の変化,腎のノンヘム鉄の測定など鉄の腎への影響,肺から吸収された鉄の動態についても検討していく予定である。
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