Research Abstract |
齲蝕の主要病原菌であるmutans streptococciは,なんらかのエネルギーを消費して低pH環境に適応している。今回,そのエネルギー消費として細胞内pH調節機構を考え,H^+を細胞外に排出するH^+-ATPaseに対する培養pHの影響を調べた。 Streptococcus rattus FA-1ケモスタット培養pH5.0(低pH適応菌),7.0(非適応菌)した菌体から膜画分を調製し,ATPase活性を測定した。非特異的な分解を極力抑えるために,低濃度のATPを用いMichaelis-Menten式の最小二乗法によってコンピュータでVmaxを推定した。 その結果,低pH適応菌のATPase活性が著しく高い値を示した。さらに,H^+-ATPaseに特異的な活性を調べるために,プロトノフォアであるFCCPに対する感受性を調べた。低pH適応菌のATPase活性はプロトノフォアによって活性化したが,非適応菌では活性化しなかった。 細菌を高圧破砕すると細胞膜は破断され,反転膜小胞(Vio)が膜画分として回収される。Vio膜結合の酵素は自身に対して抑制的に作用する小胞内側から外側に向かう△P(H^+の小胞内への輸送に起因する)を形成するために,通常の方法による活性測定では,ATPase活性への寄与はきわめて小さくなる。プロトノフォアによって△pが打ち消されると,Vio膜上のH^+-ATPaseが機能できるようになる。こうして,プロトノフォアによるATPaseの促進(Vio膜結合酵素の脱抑制)が起こると考えられる。 このような活性の差と酵素蛋白質量の差とを対応づけるために,低pH適応菌および非適応菌の膜画分についてSDS-ポリアクリルアミド電気泳動/抗ATPase血清を用いたウエスタンブロット分析を行なった。F1-ATPaseと同じ抗原性を有する蛋白質は,低pH適応菌では検出できるのに対して非適応菌では検出できなかった。 以上の結果より,本菌の低pH適応機構のひとつはH^+-ATPaseの誘導であることが示唆される。
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