Research Abstract |
口唇腺は従来混合腺と考えられていたが、近年粘液腺であるとの報告もなされている。しかし、ヒト唾液腺、特に粘液腺においてはその組織像は多様性を呈し、通常の形態学的観察のみでは必ずしも十分な知見を得られるとはいいがたい。一方、唾液には種々の糖蛋白質や酵素あるいは生理活性物質などが含まれることから、ヒト胎児口唇腺の分化にともなう形態変化と機能発現の関連について種々の組織化学的方法により検索を行った。材料には胎齢18〜31週の新鮮ヒト胎児下唇を用いた。方法は通法に従い、試料を10%中性ホルマリンに固定後、パラフィン包理薄切切片を作製し、脱パラフィン後、以下の染色を行った。形態変化をHE染色により、またムコ多糖はAlucian Blue(AB),PAS染色により複合糖蛋白はPNA,SBA,GS-II,DBA,UEA-1の5種類のレクチンを用いて反応を行った。加えて、酵素抗体法によりKeratin(Ke),Amylase(Amy),Lactoferrin(Lf),Secretory Component(SC)およびEpidermal Growth Factor(EGF)の出現状況を検討した。 胎齢18週では未発達な口唇腺の原基が、粘膜下組織中に管腔を有す細胞密度の高い部分として認められた。胎齢29週になるとピラミッド型の細胞の集合した腺房と立方形細胞からなる導管が明瞭に区別できるようになり、ほぼ成人に近い組織構造を呈していた。ABとPAS染色では、観察期間を通じ陽性反応はほぼ管腔に限局していたが、PAS染色では増齢とともにやや反応が強くなる傾向が認められた。レクチンを用いた反応では、5種類の中でUEA-1のみが陽性を呈した。すなわち、胎齢の初期では管腔内に陽性であったが、増齢とともに陽性の範囲は拡がり、31週では個々の腺房細胞も強陽性を呈するようになった。酵素抗体法による反応ではKe,Amy,Lfが観察期間を通じ陰性、SCは31週で管腔内に弱陽性、またEGFも31週において反応陽性の細胞が若干みられる程度であった。以上の結果より、今回観察を行った時期の口唇腺では形態の分化は認められるのの、機能面での分化はそれに遅れて始まるものと思われる。また、UEA-1は口唇腺の分化のマーカーとなる可能性が示唆された。
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