Research Abstract |
ラット顎下線において,リン脂質のリモデリングに関わるリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼは,アラキドノイル-CoA,エイコサペンタエノイル-CoA,エイコサトリエノイル-CoAなどのエイコサノイド前駆体脂肪酸CoAエステルを良い気質とした.これらアシル-CoAの供給に関連して,遊離脂肪酸をアシル-CoAに変換するアシル-CoAシンターゼ活性はアラキドン酸に高い活性を示したが,リノール酸,パルミチン酸なども良い基質とし,明確なエイコサノイド前駆体脂肪酸CoAエステル選択性は示さなかった.さらに,エイコサノイド前駆体脂肪酸は遊離脂肪酸中では微量成分であり,またアシル-CoA分解に関わるアシル-CoAヒドロラーゼ活性は各種アシル-CoAに対して広い基質特異性を示した.これらの結果から,エイコサノイド前駆体脂肪酸CoAエステルの選択的供給はなく,リン脂質sn-2位へのエイコサノイド前駆体の組み込みにはリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼなどのリモデリング系酵素の特性が重要であることが示唆された.さらに,ラットにイソプロテレノールを連続投与すると唾液腺の細胞増殖が惹起されるが,これに伴ってリン脂質アシル基組成とリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性が著しく変動した.さらに,耳下腺分泌顆粒膜のホスホリパーゼA_2は,想定されるホスファチジルコリンの主要分子種のうち,sn-2位アラキドン酸結合型に高い活性を示し,逆に分泌顆粒-リポソーム膜融合モデル系では飽和脂肪酸が膜融合の阻害因子となった.アシル基動態の細胞機能への直接的な関与の解明は今後の課題となったが,顎下腺はプロスタグランディンE_2合成能が高く,エイコサノイドが唾液成分や唾液分泌速度に影響を及ぼすとの報告と考えあわせると,唾液分泌をはじめとする唾液腺の細胞機能にエイコサノイド関連脂肪酸の動態が深く関わっている可能性が示唆される.
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