Research Abstract |
近年,総義歯装着者の高齢化に伴い,従来の床用レジンでは対応できずに軟質裏装材を必要とする症例は増加しつつある。しかしながら,各種軟質裏装材の臨床上の選択基準について,科学的裏付けのある指標は現在まで必ずしも明確にされていない。著者らはゴム硬度計試験法を用いて軟質裏装材の粘弾性特性を分析し得ることを報告した(広島大学歯学雑誌1993年,25巻に掲載)。さらに,有限要素法を用いた軟質裏装材の粘弾性挙動解析についても現在分析中である(広島大学歯学雑誌に印刷中)。そこで実際に軟質裏装材を裏装した義歯の粘弾性特性,とくに応力緩和能を定量的に評価し,さらに軟質裏装材の臨床選択基準を設定する目的で以下の実験を行った。 1.検討した軟質裏装材はクレペ-トドゥとモルテノソフトとし,軟質裏装材の適応と判断された患者5名ずつに裏装した。 2.ゴム硬度計を用いて,軟質裏装材裏装面の前歯部,臼歯部において初期値(G0),最終値(G300),応力緩和の大きさ(G0-G300)/G0の値を裏装直後,1ケ月後,3ケ月後,6ケ月後に測定した。 以上の計測したデータを現在分析中であるが,クレペ-トドゥおよびモルテノソフトを裏装したいずれの義歯においても,初期値(G0),最終値(G300)〜とも著明な変化を示さない傾向が認められた。よって応力緩和の大きさ(G0-G300)/G0の値そのものも大きな変化を示さない傾向が認められた。すなわち,6ケ月後まではクレペ-トドゥおよびモルテノソフトは比較的安定した粘弾性特性を示すものと考えられる。現在さらに計測を継続しており,1年後でのデータの収集を行っているところである。今後は1年後のデータを含め,応力緩和能の大きさと変化率を分析し,有限要素法の結果とともに軟質裏装材の臨床選択基準を検討する予定である。
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