Research Abstract |
総義歯装着者の咀嚼機能を客観的に評価する方法として,咀嚼能率の測定,咀嚼筋筋電図の分析,咬合力の測定,咀嚼運動の分析などが行われ多くの成果を上げていると思われる.しかし,このうち咬合力の測定については,総義歯にとっては噛みにくい咬合力計やロードセルを用いたクレンチング時の静的咬合力の分析が多く,また機能時の咀嚼時咬合力を分析している場合は咀嚼筋筋電図の積分値により変換している場合が多く必ずしも充分な評価法は得られていない.咀嚼運動は等張性の要素と等尺性の要素を含むため,咀嚼筋筋電図の積分値による咬合力への変換法では,咀嚼時の噛みしめ速度が積分値に大きく影響を及ぼすことが考えられ,正確な咬合力との相関は得がたい. そこで,圧力負荷により電荷を発生する菲薄な圧電性高分子シートを総義歯人工歯に組み込み,咀嚼時の圧電性高分子シートからの出力電圧より咬合力を測定し,同時に導出される咀嚼筋筋電図との関係を明らかにすることを目的とし,以下の結果を得た. 1.圧電性高分子シートを総義歯左右側小臼歯部および大臼歯部に組み込むことにより,人工歯部に加わる力積を定性的に計測することができた. 2.咀嚼時の上下顎人工歯の接触関係は平衡側に続き,作業側の順となり,人工歯に加わる力積をそれぞれの側で咬合接触前後に分割し,咀嚼筋の等張性および等尺性の要素において筋電図波形と比較することが可能となった. 3.咀嚼時筋電図分析より,咀嚼筋筋放電時間は咬合接触前が咬合接触後より持続時間は長く,それに伴い積分電位も咬合接触前で増大していることが明かとなった. 以上より,咬合力を筋電図積分電位より換算するには咀嚼スピードに表される等張性要素の影響を大きく反映していることが明かとなり,今後人工歯に加わる力積を定量的に分析を加えることで咬合力と咀嚼筋筋電図との関係をより詳細に考察できるものと考える.
|