Research Abstract |
我々は,これまでにヒト胎児顎下腺,ヒト正常唾液腺,ヒト唾液腺多形性腺腫,唾液腺癌などにおける細胞増殖因子(EGF,TGFalpha)と癌遺伝子産物(Ha-ras p21,c-myc p62)の発現様相を免疫組織化学的に検索し,EGF,c-myc p62は,胎児期の腺細胞や唾液腺腫瘍の形成,増殖,分化に積極的な作用をしていることを示唆した。今回,他の細胞増殖因子(PDGF,FGF,),そのReceptor系(EGF-Receptor)と癌遺伝子産物(fos,jun,erb B2)の発現様相を免疫組織化学的に検索する前段階として,EGF,TGF-alpha,Ha-ras p21,c-myc p62の発現した唾液腺腫瘍の周囲に存在する唾液腺でこれらの細胞増殖因子,癌遺伝子産物の発現を検索した。この結果,正常唾液腺及び多形成腺腫の周囲に存在した唾液腺組織には,いずれの細胞増殖因子および癌遺伝子産物も発現は認められなかった。悪性唾液腺腫瘍(腺様嚢胞癌,粘表皮癌)では,全ての細胞増殖因子や癌遺伝子産物のHa-ras p21の発現も認められなかったのが,c-myc p62陽性例では,その周囲に存在した唾液腺組織にはそれぞれ57%,50%,あわせて15例中8例,52%の症例にc-myc p62の免疫活性がみられ,大腸癌での癌胞巣周囲の間質におけるc-myc p62の発現は,今回の唾液線の検索結果と類似していた。c-myc mRNAの発現やc-myc遺伝子の転写は,細胞増殖因子の刺激によって誘導され,またc-myc蛋白には,他の遺伝子の転写を促進したり抑制したりする性質があることも報告されており,今回の結果と併せて考えれば,癌細胞が周囲組織を刺激してc-myc p62の発現を誘導し,癌化を誘導していることが推察される。さらに,他の細胞増殖因子(PDGF,FGF,),そのReceptor系(EGF-Receptor)と癌遺伝子産物(fos,jun,erb B2)の発現様相を唾液線腫瘍で免疫組織化学的に検索すると同時に,唾液腺腫瘍における遺伝子レベルでの検索から両者の相互作用と関連性を明らかにしたい。
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