Research Abstract |
ヒト上顎洞粘膜の基底細胞は,線毛円柱細胞への分化と,扁平化生様分化の二方向性のあることを培養学的に示唆してきた.今回,同培養細胞において,角化,扁平化生能についての実験的検索を行い,今回は特にイソボルクリン,フィラグリン,KL1などのケラチンモノクロナール抗体を用い,免疫組織学的検討を行った. 1)イソボルクリンの染色性;In vivoの皮膚と口腔粘膜では,上部棘細胞層と顆粒層が陽性を,一方洞粘膜上皮では正常な単層多列部と病的肥厚を示す多層化細胞部の両者は全層で陰性を示した. In vitroでは皮膚と口腔粘膜の培養細胞シート中に散在性の陽性を示し,洞粘膜の培養細胞は,皮膚や口腔粘膜と同様の所見を示し,In vivoとは異なっていた. 2)フィラグリンの染色性;In vivoの皮膚と口腔粘膜では角化層や錯覚化層が陽性所見を,また洞粘膜上皮では単層部と多層化部とも全層で陰性であった.In vitroでは皮膚,口腔粘膜,洞粘膜の培養細胞シートに散在性の陽性を示した.以上より,培養下では洞粘膜細胞は扁平化生方向に分化し易くなり潜在する角化能が刺激・増強され,角化に特異的な蛋白を産生した結果と考えられ,生体内で生じる環境変化も細胞の分化と発育に変換の生じることが推定できた. 3)KL1の染色性;In vivoの皮膚と口腔粘膜の上皮では,基底層を除く全層が陽性を,また洞粘膜上皮は単層部で一部の胞体のみが陽性を示し,多層部では基底部を除き散在性に陽性であった. In vitroでは,皮膚,口腔粘膜,洞粘膜の各培養細胞はexplant片から遠位の拡大した細胞になるにつれ陽性度が増強し,線毛円柱上皮は重層扁平上皮細胞に類似した性格を有する可能性が推測された. 以上を総括すると,培養細胞中にみられる上顎洞由来の基底細胞は扁平角化上皮細胞へ分化することおよび潜在的に角化能を有する可能性を実験的に証明した.
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