Research Abstract |
口腔癌における p53の過剰発現と、これに伴う細胞外マトリックスの動態をヒト舌癌(偏平上皮癌)を対象に免疫組織化学的に検索し、以下の結果を得た。 1.未治療舌癌症例70例のp53蛋白発現は症例の59%に認められ,これは腫瘍局所の組織学的な悪性度,ki-67標識率の高い症例に陽性症例の割合が高く,また頸部郭清症例19例の舌癌原発巣におけるp53蛋白の発現は,頸部リンパ節転移を伴う症例に陽性症例の割合が高かったことから,p53遺伝子の変異および変異型p53蛋白の過剰発現は多段階発癌の一過程のみならず,腫瘍の悪性度にも関係している可能性が示唆された。 2.未治療舌癌70症例の癌間質には,コンドロイチン硫酸,versican-like large proteoglycan,tenascinの著明な分布を認めた。これらは腫瘍局所の分化度,浸潤様式,組織学的悪性度,ki-67抗原の発現と比較した場合,いずれも悪性度の高い群に強陽性症例の割合が増加することから,これらの細胞外マトリックス成分が癌の浸潤,増殖に促進的因子として関与している可能性が示唆された。 3.頸部郭清症例19例の舌癌原発巣におけるコンドロイチン硫酸,versican-like large proteoglycan,tenascinの発現,分布を頸部リンパ節転移の有無から比較した場合,リンパ節転移を伴う腫瘍に強陽性症例の割合が増加し,また転移リンパ節においては原発巣と同様の所見であったことから,これらの細胞外マトリックス成分が癌の転移にも促進的因子として関与している可能性が示唆された. 4.舌癌のp53蛋白発現と癌間質に発現するversican-like large proteoglycan との間には正の関連性が認められ,tenascinとの間には統計学的有意差は認められなかったことから,舌癌の多段階発癌におけるp53遺伝子変異の時期およびこれに近接する時期における多種の増殖因子・受容体系の異常が,間質細胞にversican-likelarge proteoglycanの産生を誘導させている可能性,またtenascinに関してはさらに複雑な要因が関与している可能性が示唆された。
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