Research Abstract |
本研究は、“10歳前後に発現する描画表現に対する意欲の低下傾向"いわゆる「10歳レベルの節」に着目し,プロトコル分析という認知科学的手法によって,事例に即した内実の分析を行うことを目的とした。これによって、指導方法や主題の適正化による対応策を見いだそうとするものである。具体的には,描画表現意欲低下の対象は,視覚的写実成果を課題とする描画表現に対するものではないかと考え、その検討方法として、内的制作過程に着目し,そこで用いられる各自の制作方略strategyや対象の認知過程,また途中に消去された線形の内容を再現し、それら制作過程を外在化する方法を考案した。 まず10歳前後の児童で描画表現に対して意欲の低下した者を抽出した。事前の面接調査では次の点が明らかとなった。(1)顔を描くことに対して表現意欲の有意な低下傾向を示す。(2)幼稚園や低学年時に自分の描画に対して他人が示した評価(特に悪い評価)を覚えている。 次に被験者に対し、描画課題の解決事態中に考えていること一切を声に出す思考口述thinking aloud同時報告法を用いた個別描画実験を実施し,プロトコル・データを収集した。課題は、想像画自画像、観察画自画像、想像画チョキ手、観察画チョキ手の四種類である。この口述データとともにビデオに記録された画像データによって表現過程をモデル化した。その結果次の点が明らかとなった。(1)プロトコル・データ中の指示語と目、鼻等の部位の名詞の頻度を比較した結果、想像画が名詞が優位、観察画は指示語が優位であった。(2)人物画の描画ストラテジーに関して、顔の内部を後回しにするという傾向がみられた。(3)低下集団には、頭髪を克明に描く事例、横顔ばかりを描く事例人物を小さく描く事例などがみとめられた。
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