Research Abstract |
ハッカ(Mentha spicata)およびミカン(Citrus unshiu)においては,不斉炭素をもたないゲラニル二リン酸(GPP)からそれぞれ(S)-リモネンおよび(R)-リモネンが種特異的に生合成されている。その種特異的なリモネン生合成過程における立体制御機構の解明を計った。(1)Mn^<2+>など酵素の活性化二価金属イオンがGPPの二リン酸基に配位した際の,GPPの炭素骨格の構造変化を^1Hおよび^<31>PNMRの緩和時間測定により解明した。その結果,GPPは,Mn^<2+>の配位によって炭素鎖が折れ曲がった構造に変化した。この構造変化は,配位したMn^<2+>とGPPの2位および6位二重結合との相互作用によって,それぞれの二重結合がともにMn^<2+>に接近したために生起したものであった。(2)ハッカおよびミカンのリモネン合成酵素を用いて,(S)-および(R)-[1-^2H]GPPから(S)-および(R)-リモネンを生合成した。それぞれの酵素によって生成したリモネンの重水素標識位置を解析した。そして,ハッカおよびミカンにおけるGPPの二リン酸基が2位二重結合に対していずれの面に脱離しているのかを明らかにし,リモネンの4位キラリティーの発現機構を解明した。その結果,ハッカとミカンで種特異的キラリティーをもつリモネンが生合成されるのは,GPPの二リン酸基が(2re,3si)面側に脱離して,それぞれの種に特異的なendo型のリナリルカチオン中間体が生成し,これらが環化することによっていることを明らかにした。(3)ハッカおよびミカンのリモネン合成酵素を用いて,[8,8,8-^2H_3]GPPおよび[10,10,10-^2H_3]GPPからそれぞれリモネンを生合成し,リモネンの8位二重結合の形成機構を解明した。その結果,ハッカおよびミカンのいずれにおいても,GPPの10位メチル基からの位置選択的な水素脱離によってリモネンの8位二重結合が形成されていた。
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