Research Abstract |
臨床的にヒトの記憶能力を検査する方法として,一連の言葉や図形の対を指示した後,一方から他方を連想させる対連合記憶課題がある.側頭葉に損傷を持つ患者は,この記憶課題に顕著な障害を示すことが知られている.研究代表者は,計算機によって合成された視覚刺激を用いて対連合記憶課題を確立し,日本ザルの大脳側頭葉前部において,対連合図形の長期記憶を表現するニューロン群を発見した.この連想に関与するニューロン機構は,物体認知の過程を解明する手がかりとなると予想される.本研究では,視覚図形の記憶に関与する大脳側頭葉皮質のニューロン群を,金属微小電極を用いた電気生理学的方法により解析した.今年度は,対連合記憶課題によって学習の成立した1つの図形に幾何学的な変化を加え,これを単一ニューロンの記憶時に導入して,反応選択性の解析を行った.その結果,元の図形に回転や鏡像反転の操作を行っても反応強度に大きな変化はなかったが,形を決定するパラメターを変えた場合は,常に反応強度が減弱することを見出した.これらの結果は,学習によって長期記憶に蓄えられた形の情報が,側頭連合野のニューロン群によって最適に符号化されることを示唆する新たな知見である.研究代表者は,このニューロン機構をチューニング(neuronal tuning)と名付けた.物体の3次元的な形態自体が記憶されるのではなく,物体のいくつかの2次元像の組合せによる連想関係が記憶されるという仮設は,既に報告した連想機構と,このチューニング機構によって支持される.
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