Research Abstract |
本研究は,野性由来カニクイザル集団のDNA多型を解析し,その多型部位が標識として,個体の遺伝的管理や疾病の遺伝要因の解析などに有効に用いることができるかどうかを検討するものである. 本研究では,国立予防衛生研究所筑波医学実験用霊長類センターにて,繁殖用として飼育されている,野性由来のカニクイザル512頭を対象とした.カニクイザルの個体の原産地は,フィリピン,インドネシア,マレーシアであり,各個体より血液試料を採取した.血液中の有核細胞をプロテナーゼKにより,タンパク分解処理後,フェノール処理によりDNAを抽出した. DNAの変異については,まず肝型糖輸送担体GLUT2遺伝子のイントロン部分のジヌクレオチド反復数の差について,PCR-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により,解析した.PCR法により得られたDNA断片とは,ヒトについての実験とほぼ同じ大きさで,180〜200塩基対であり,ヒトの場合と同様に高度の多型性がみられた.対立遺伝子の数は,各地域集団で10〜20であり,ヒトの集団より少ない傾向にあるが,それでもホモ接合の割合は低く,同じ遺伝子型の組み合わせの個体を持つ複数個体の例もまれであり,個体識別や繁殖上の遺伝管理の上で実用的なDNA標識であることが確かめられた.また,ヒトの反復配列の多型であるMCT118部位についても高度の多型性が確認されている.さらに集団の地域性についても,現在検討中である. 抽出したDNAは,本研究における解析以外にも,カニクイザル野性由来個体のDNA変異を解析する用途に利用することができ,野性個体を輸入しにくくなっている今日,これをいわばDNAバンクとして将来的に保持・管理することの意義も大きい.
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