Research Abstract |
黒曜石は先史時代の石器の原材として広く用いられており,これらの原産地の追究は,当時の文化圏・交易圏を検討する際に重要な情報をもたらす。特に,長野県小県郡和田村及び周辺地域は,黒曜石の一大原産地として知られており,関東地方を中心に近接地域への黒曜石の供給地として重要な地域である。和田峠地域の小深沢・東餅屋・和田峠西,諏訪地域の星ケ塔,男女倉地域,長門町地域の鷹山などの調査が行なわれている。 本研究では,これらの地域の調査を踏まえて,黒曜石原石として採取可能な地点の現地調査,黒曜石試料の採取を行い,さらに採取した黒曜石について,化学組成(主成分元素,微量成分元素)の決定を行い,分析地球化学的観点より黒曜石原産地の識別・分類を行なった。分析に供した黒曜石は,20地点から採取された黒曜石92試料である。主成分元素の定量は,蛍光X線分析により,SiO_2,TIO_2,Al_2O_3,Fe_2O_3,MgO,CaO,Na_2O,K_2Oの8元素について行なった。諸種微量成分元素の定量は,機器中性子放射化分析により,主成分元素であるNa,Feを含め,Rb,Cs,La,Ce,Sm,Eu,Lu,Th,Hf,Co,Scの13元素について行なった。 本地域より産出した黒曜石の主成分元素組成は,すべてSiO_2:75〜77%,Al_2O_3:13%,Fe_2O_3:0.9〜1.4%,CaO:0.9〜1.4%,Na_2O:3.0〜4.0%,K_2O:4.5〜5.0%の範囲内で採取地点に関わらず類似した流紋岩の化学組成を示した。一方,諸種微量成分元素には,採取地点によるその存在量の顕著な差が認められた。特に,Rb,Cs,La,Eu,Th,Scなどの元素に特徴がみられた。これらの元素存在量に着目することによる,採取地点に対する詳細な識別・分類が可能であった。 今後さらに,EPMAによる微斑晶などの検討結果と合わせて黒曜石の成因の観点から考察を行ないたい。
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