Research Abstract |
本研究では,高齢者を対象として,(1)「適応」尺度についての検討と(2)空間の広がりと測定法の開発という2つの課題を設定した.第1の課題である高齢期の「適応」について検討するために文献の収集を行うと同時に,第1回国際健康心理学会議等で最新の研究について資料収集した.その結果を簡単にまとめると以下の通りである.これまで適応の尺度として用いられてきたものは主観的幸福感と総称されるもので,モラール・スケールあるいはLSIで測定される自分や自分の生活に対する満足度を中心とした尺度である.一般に高齢者の主観的幸福感は高いため,幸福であればいいのかといった議論があるが,主観的幸福感が健康状態や収入といった要因によって規定されている以上,適応の尺度としての意味を持つと考えられる.とはいえ,幸福がすべてかという批判に答えるために,今後の研究では主観的幸福感の測定だけでなく,適応的な生活とは何かを考える必要があろう. 第2の課題では,高齢者の持つ空間の中でも重要と考えられる社会的な空間に焦点を当てて測定法を検討した.近年さまざまな領域で使われるようになってきたソーシャル・ネットワークの概念は高齢者の社会的空間を考える上でも重要と考えられ,個人の持つソーシャル・ネットワークを測定しつつ,社会的空間を測定する方法を考えることにした.そして若干の予備調査の結果,KahnとAntonucciのコンボイ・モデルを参考に,メンタル・ディスタンスを測定することにした.第1回目の調査対象は高齢者ではなく大学生としたが,メンタル・ディスタンスを測定する人(ソーシャル・ネットワークに入っている人)や数やソーシャル・ネットワークの機能についての検討が必要であることがわかった.第2回目の調査は高齢者を対象に行い,平成6年度の学会に向けて分析を続行中であるが,この方法を用いて高齢者の社会的空間を測定することが出来るといえる.
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