Research Abstract |
生体組織は,工学分野で扱われる材料とは異なり,絶えず自らを成長・吸収させることにより,機能を維持・回復し,環境の変化に対して適応する能力を有している.本研究では,骨の再構築を力学的刺激に対する局所的な反応としてとらえ,これにともなう組織の力学的特性や自然状態変化がもたらす組織全体構造としての特性変化について実験的検討,数理モデルの提案及びそのシミュレーションを行った.以下に得られた結果の概要を示す. 1.生体軟組織と同様にその存在の予想される生体硬組織における残留応力の存在を,兎の脛骨・腓骨系及び牛尾椎の海綿骨・皮質骨系不静定構造に対して防水型のひずみゲージを適用することにより確認した. 2.残留応力を考慮した骨の力学的再構築モデルを提案し,有限要素法を用いた再構築シミュレーションを通じて,実験結果との比較を行い,応力調整としての骨の再構築による適応の仮説を支持する結果が得られた. 3.骨の力学的再構築に学ぶ構造最適設計手法への応用として,構造全体の最適性としての最大剛性及び局所再適性としての応力分布の均一化を実現するための,初期ひずみ及び密度分布決定問題の基本的な解を得た. 骨の再構築は本質的には各種細胞活動によるものであり,それらがどの様に骨に対する力学的刺激を感知し,生化学的なふるまいに結びつけるのかなど,最近細胞レベルでの挙動に関する仮説の検討が始められたところである.自己の力学的状態を感知し,自らを再構築することにより機能を維持し,それらが損なわれた場合は回復するメカニズムを解明することは,生物の有する巧さへの興味のみならず,臨床医学への応用,さらには,これまでの工学の分野で取り扱われてきた材料とは本質的に異なる点で,今後の工学分野への応用とそれらの発展が期待される.本研究は,生物に対する工学的なアプローチとしての初期的な研究として位置づけられる.
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