Research Abstract |
本研究では,ポプラの生活環の一局面である冬芽の開芽という過程へのフィトクロムの関与を検討した。フィトクロムの吸光スペクトルのピーク波長域である赤色光域あるいは遠赤色光域を除去した光条件下,ならびに赤色光あるいは遠赤色光の単色光の光条件下で低温処理した冬芽の開芽反応と、その光可逆性を調べた。さらに,冬芽の低温処理期間が光感受性に及ぼす影響を検討するために,赤色光または遠赤色光の条件下で低温処理期間の異なる冬芽の開芽を調べた。 赤色光または遠赤色光域除去光の条件下では冬芽の開芽が遅れることが認められた。赤色光による冬芽の開芽制御効果は遠赤色光を与えることによって打ち消され,さらに続く赤色光によって再び現れることが認められて,赤色光と遠赤色光とによる冬芽の開芽の光可逆性が示された。よって,冬芽の開芽という過程はフィトクロムによって制御されていることが実証された。また,低温下で受けた光に対しても赤色光と遠赤色光とによる冬芽の開芽の光可逆性が認められ,フィトクロムの光平衡状態が暗黒下でそのまま保持されることが示唆された。 真正休眠状態にある冬芽は光の有無や光質条件に関わらずに開芽せず,光感受性が鈍いと考えられる。一方,低温処理によって真正休眠が解除された冬芽は赤色光によって開芽が制御されることが認められた。これはフィトクロムが冬芽の真正休眠の解除の過程に関与するのではなく,後休眠状態にある冬芽が開芽に至るまでの過程に関与することを示している。つまり,冬芽内の葉原基と葉原基のあいだの伸長成長が赤色光によって制御されて,開芽に至るまでの期間が長くなると考えられる。これらのことにより,遠赤色光吸収型のフィトクロムが冬芽の開芽に抑制的に働いていることが明らかになった。
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