Research Abstract |
1.(1)3-4週例の若年ウイスターラットを用いて、手術顕微鏡下に下位胸椎レベルに椎弓切除を加えたのちに硬膜越しに片側脊髄を圧挫し脊髄損傷を作成した。(2)自家末梢神経移植組織として約10mm長の坐骨神経を取り出し,その上端下端をそれぞれ損傷部の上位,下位の灰白質に挿入し,脊髄損傷部位の中枢側と末梢側を架橋する組織とした。(3)再生中枢神経が移植片内へ進入する時期である移植後約2週前後から,光顕・電顕用標本を作成し,再生軸索,シュワン細胞,細胞外マトリックス,アストロサイトの突起の形態学的変化,ならびに神経成長栄養因子の1つである塩基性線椎芽細胞成長因子(bFGF)の発現を免疫電顕レベルで検討した。結果:移植組織内には多数の再生軸索が出現したが,これらはほとんどが基底膜の内側に沿って伸展したシュワン細胞の突起に取り囲まれるようにして伸長していた。一方,基底膜に沿った軸索伸長はわずかであり,末梢神経の再生機構とは異なり中枢神経からの軸索再生にはシュワン細胞膜がより重要な役割を果たすものと思われた。bFGFは再生軸索の伸長時期に一致して移植組織内への集積がみられた。脊髄組織内では損傷部周囲のアストログリアならびに神経細胞内にbFGFの発現がみられた。免疫電顕で移植組織内を観察すると,シュワン細胞膜ならびにその基底膜,コラーゲン線維,線維芽細胞突起にbFGFが発現していた。これらの結果は脊髄内の神経細胞とグリア細胞,移植片あるいは移植片周囲の結合織を形成する細胞により作られたbFGFが,移植組織の細胞間基質に蓄積し,(1)シュワン細胞の増殖を介して間接的に,あるいは(2)基底膜やシュワン細胞膜の上で直接的に軸索成長の促進に関与していることが示唆された。これらの仮説を証明するために,現在以下の実験を行ってる。 2.移植組織へのbFGFの集積が直接どこに作用しているかを調べるべく,培養系を用いての実験を追加している。先ず,in vitroの系に乗せやすい感覚神経細胞に対するbFGFの効果を検討している。脊髄後根神経節から感覚神経細胞を取りだしコラーゲンゲル内で培養する。培養液にNGF,bFGF,抗bFGF中和抗体を種々の組合わせで添加し,神経線維の伸長,シュワン細胞の増殖を無血清培地のみを添加したコントロール群と比較検討している。また,脊髄から運動神経を単離することを試みており,同様に運動神経へのbFGFの作用を検討する予定である。
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