Research Abstract |
超高齢化社会を迎えつつある現在,歯列の欠損から失われた機能や審美性を回復し,快適な口腔環境を維持することはQOLの向上を図るために意義深い。しかし,高齢者の補綴治療の処置方針については,明確に確立されていないのが現状である。そこで,臨床判断学とよばれる「何らかの不確実な状態で,合理的または体系的に最善の医療行為を選択する」分析手法を高齢者の補綴治療に適用することを考えた。本研究では以下の4段階の手順に絞り,現在の高齢者に対する補綴治療の成績を統合,整理し,臨床判断基準作成のデータベース構築を目指した。 (1)判断すべき問題の定義:高齢者を通院可能な患者と寝たきりの在宅あるいは入院患者に分けた。 (2)判断樹の設定:欠損補綴を行うか否か,可徹性か固定性か,可徹性であれば,維持装置の種類を設定した。 (3)結果の想定および(4)確率の推定:過去の文献から治療成績(5年後の予後)を統合整理した。 通院可能な高齢者においては,32〜39%に補綴処置がなされていないこと,多数歯欠損で少数歯が孤立している場合は粘膜負担の義歯が予後成績がよいことが明らかとなった。寝たきり老人では,残存歯の30〜40%が要抜去歯であり,欠損補綴にはオーバーデンチャーによる対応が行われ,その3年後の予後は週1回のProfessional tooth cleaningと義歯の洗浄により維持されていた。 以上の分析過程から,過去の文献によるコ-ホ-ト研究のみでは,症例数と条件のコントロールに制約があるため結果および確率の推定をするには不十分であった。今後,補綴処置の効果とリスクを定量化し,判断基準を明確にしていくためには,臨床的な疫学調査およびアセスメントの必要性が示唆された。
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