Research Abstract |
肺胞II型上皮細胞は,肺の虚脱防止や気道クリアランスの効率化に重要な肺表面活性物質の産生・分泌細胞であるばかりでなく,II型細胞自身が増殖し,I型細胞へと分化することが示唆されている。しかし,この肺胞上皮細胞の分化についての研究には,その状態を測る的確な指標がないことが最大問題であった。私の肺表面活性物質の分泌機序に関するこれまでの検討により,II型細胞にbeta-アドレナリン受容体としてbeta_1-およびbeta_2-の両サブタイプが存在し,いずれも分泌を調節していることが判明した。同様の化学的刺激を受容し,同様の情報伝達系を担う,同一の機能に関わる受容体が単一の細胞に存在することの意義については不明であり,本来別々の機能を担うべきサブタイプが一時的に共通の働きに関与していた可能性も考えられる。そこで,これらの受容体をコードするmRNAの発現量を指標に肺胞上皮細胞の分化に関する基礎的検討を行った。 まず,微量の受容体mRNAの高感度定量法としてribonuclease protection assay法を応用した定量法を確立した。本法は細胞に発現するmRNAを0-60amol/mug total RNAの範囲において相関係数0.99以上の高い相関をもって特異的に定量可能な方法であった。II型細胞の初代培養を用い,beta_1-およびbeta_2-受容体のmRNA発現レベルを経時的に測定すると,beta_2-のmRNAレベルに著明な変化は無かったのに対し,beta_1-は培養2日目以降徐々に減少した。このbeta_1-受容体mRNAの減少は培養時間の経過に伴うII型細胞の肺表面活性リン脂質産生,分泌能の消失の推移とよく類似していた。これらの結果は,両受容体がそれぞれ異なる機序により発現が調節されていることを示唆するものであり,また,両サブタイプの発現量がII型細胞の分化について研究する際の全く新しい指標となる可能性も考えられる。今後,今回確立した高感度mRNA定量法を用いて,II型細胞に発現する様々な機能蛋白をコードするmRNAレベルの変化について検討するとともに,両受容体の発現レベルと細胞機能の相関についてさらに詳細な検討を行う予定である。
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