Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
本研究では、小型類人猿テナガザルの思春期の発達特性を明らかにすることを目的にしている。テナガザルのデータをヒトやその他の霊長類の先行研究と比較することで、ヒトの思春期発達の進化的基盤をさぐる試みだ。対象は生後からの経過が明らかな、8歳と9歳のアジルテナガザル2雄で、その縦断的な発達を総合的に調べている。今年度の研究実施状況を以下に報告する。2個体の身体成長は、すでに歯の萌出が完了し、体重増加がみられなくなった。犬歯の伸長のみが続いている。テナガザルは8-9歳に身体成長がほぼ完了するようだ。歯の萌出に関する基礎資料をGibbon Journalと日本霊長類学会で報告した。これは今後の生活史の比較研究に役立つだろう。テナガザルの体重成長には、ヒトやゴリラ、チンパンジーの雄などで報告されるような顕著な思春期成長スパートは存在しないことが明らかになった。行動発達については、思春期に特有と思われる変化がいくつかあった。成体雄に特有な「キャウ」という金切り声の初出、性的アピール行動の日常化などである。また、テナガザルの成体は性ごとに異なるレパートリーを歌うのだが、こども期には両性のレパートリーを発声することが知られている。対象個体の6歳以降には雌のレパートリーが確認されずにいたが、今年度においてもそれは同様だった。歌における性分化が定着したようだ。認知実験は田中正之助教と共同研究をおこなっている。写真への好みやカテゴリー形成をチンパンジーと同様の課題を用いて比較した。結果、自種への好みは明確には見出されなかった。チンパンジーと同様に、生育歴によって影響を受けている可能性が示唆された。この結果について日本霊長類学会で報告するとともに、投稿の準備をした。これらのテナガザルの発達にかんする総合的知見を、バングラデシュでおこなわれたシンポジウムで発表した。以上、研究実施状況を述べた。
All 2007 2006
All Journal Article (3 results)
Gibbon Journal 3
Pages: 66-73
科学 76・10
Pages: 982-983