Research Abstract |
穴あけ,切断などで用いられるレーザ加工では,超微粒子やプラズマの生成など,複雑な溶融・蒸発現象が伴う.これらの現象を微視的に明らかにするには,材料を連続体としてではなく,原子,分子の集合体として扱わなければならない.原子オーダでの解析,シミュレーションの手段として,分子動力学の適用が考えられる. 分子動力学は,極微小な切削や研削など機械加工のシミュレーションに用いられた例はあるが,レーザ加工に適用された例は見当たらなかった.そこで,本研究では,吸収係数を考慮した結晶のレーザ光吸収モデルを提案し,レーザ照射による材料の溶融・蒸発現象の分子動力学シミュレーションを試みた.本年度は,銅,アルミニウム,鉛の単結晶fcc金属を対象として,材種による熱衝撃現象や蒸発形態の相違を中心に検討した. シミュレーションによって得られた結論を要約すると,以下のようになる:(1)レーザ照射により材料内に熱衝撃波が伝播する.特に爆発的に蒸発するとき大きな圧縮場が生じる.(2)熱衝撃波の伝播速度は材料の弾性波速度であり,レーザのパワー密度によらず一定である.(3)蒸発粒子の形態はレーザのパワー密度に依存し,パワー密度が高いと原子は小さなクラスターとなってバラバラに飛び散るのに対して,パワー密度が小さい場合,比較的大きなクラスターを形成して,表面から剥離するように飛び出す.(4)以上の諸現象は,材種の点から見ると,2原子間のポテンシャルの井戸の深さに依存する.(5)溶融から蒸発に至る過程では,表面近傍に多くの小さな気泡が生じ,それらが成長するにつれて,隣接する気泡同士が一部つなぎ合わさって大きな気泡となる.そのとき,クラスタが形成され,ちぎれるようにして蒸発する.(6)比較的大きな気泡ができても,クラスタ化するに至らず,やがて気泡がしぼんで,ついには消滅してしまう場合もある.そのときは顕著な蒸発は生じない.
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