Research Abstract |
本研究では水素結合性高分子である糖鎖の分子運動性をコントロールしていると考えられる水酸基の熱的挙動に関する基礎データを集めることを目的として以下の実験を試みた。 1.パウダー状α、βキチンをそれぞれKBr錠剤成型用圧縮器でタブレット状に成形し、現有の装置を用い導電率σの温度依存性を測定し、既に報告してあるセルロースI、II型のセルロース鎖と同じ温度域に転移点Ttが存在するか調べた。その結果、それぞれCell I型は150℃、Cell II型は130℃、αキチンは130℃、βキチンは150℃近傍に転移点が認められた。転移点前後の見かけの活性化エネルギーH[eV]についても比較検討した結果、Tt以上と以下の活性化エネルギーの差を算出してみると0.5〜0.6eVとなった。このエネルギーはイオン移動度μに関連したエネルギーであり、糖鎖間の分子間水素結合を切断して分子鎖運動を生じさせるエネルギーと考えられる。 2.セルロース試料について今回購入したFT-IR装置に現有の温度可変装置を取り付け、室温から200℃近傍まで温度を変えながら分子内、分子間水素結合のO-H伸縮吸収領域の赤外分光スペクトルを測定し、ピーク位置及び強度変化を調べた。その結果、Cell I、II共に温度上昇に伴い、ピーク位置は高波数側にシフトし、特に125〜150℃で急激な移動が認められた。これは温度上昇によって、特にTtに対応する温度域で、フリーなOH基が増すこと、すなわち水素結合力が弱まることを示している。 3.温度可変固体高分解能^<13>C-NMR装置によりセルロース試料について室温から100℃まで温度を変えながら、CP/MAS^<13>C-NMRスペクトルを測定した。Cell IとCell IIのC_<2,3,5>位のピーク強度を比較した結果、Cell Iの方が明らかに強度の減少が著しいことが認められた。現在C_<2,3,5>位の3つに分離したピークのどのピークがC_2なのかC_3なのか同定し、より明確な水酸基の水素結合力の変化の定量化を試みている。
|