Research Abstract |
クエン酸発酵性Lactococcus lactis はラクトース代謝能,タンパク質分解能およびクエン酸代謝能を持ち,乳業分野において応用範囲の広い乳酸菌である。しかし,それらの代謝機能が核外遺伝子に支配されており,遺伝的に不安定で失われやすいことが知られている。本研究では,わが国の乳業界で広く使用されている Lactococcus lactis subsp.lactis biovar diacetylactis NIAI N-7(以下 Lactococcus diacetylactisと記す)を供試菌株とした。筆者らのこれまでの研究成果より,Lactococcus diacetylactisでは,分子量の異なる3種類のプラスミドDNAはいずれも重要な発酵的性質の発現に関与しており,特に,タンパク質分解酵素の生産には34Mdalと23Mdalプラスミドが関与していた。そこで,それらの欠損株と親株の酵素学的性状を詳細に比較検討することによって,タンパク質分解機能の遺伝学的解析を行った。 まず,乳中の主たるタンパク質であるカゼインに対する作用をSDS-PAGEによって調べたところ,両プラスミドに支配されているタンパク質分解酵素系は,いずれもβ-カゼインを基質として作用していることが明らかとなった。次に,各菌株の培養液より菌体外,表層結合および細胞内プロテアーゼを調製し,タンパク質分解酵素の活性を調べた。その結果,23Mdalプラスミドは細胞内プロテアーゼの生産に関与しており,この欠損株ではペプチダーゼ活性の有意な減少が認められた。特にLys-P-NAを基質とした時のアミノペプチターゼ活性は親株の1/5であった。しかし,34Mdalプラスミドの機能とプロテアーゼの関係は特定できなかった。今後,23Mdalプラスミドに支配されているペプチダーゼの基質特異性をさらに明らかにすることは,プラスミド欠損株を発酵乳製品製造に応用する上で有益と思われる。
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