多くの重金属類にはラットをはじめ種々実験動物の肝のヘム含有酵素(P450)量を低下させる作用がある。これまで、この重金属によるP450量の低下機構のほとんどはヘム代謝の点から補えられており、重金属投与による肝細胞でのヘム合成酵素および分解酵素の阻害あるいは誘導で説明されてきた。しかしながら、1)重金属投与の肝小胞体(ミクロソーム画分)のP450含量の低下とミクロソームを酵素源とした時の種々基質に対する酵素活性の低下は必ずしも一致しないこと、また2)P450には基質特異性を異にする種々分子種が存在することが知られており、重金属によるP450含量の低下作用には、P450分子種に対する特異性があると推測させる。 そこで、本研究では、すでに我々が見いだしている硝酸鉛のほか塩化コバルト、塩化ニッケルおよび塩化カドミウムを試料として、これらの重金属イオンをラットに投与した場合の肝での450IA2発現量への影響をmRNA、蛋白および酵素活性レベルで比較検討した。その結果、肝の総P450含量はいずれの重金属イオンを投与した場合にも有意な低下が観察されたが、P450IA2の発現低下作用は硝酸鉛を投与した場合にのみ見られた。また、450IA酵素誘導剤を与えた場合のP450IA(特にP450IA2)の誘導も、硝酸塩を前投与した場合にのみの誘導量の低下が確認された。さらにこのP450IA2の誘導阻害は、用いる誘導剤に存在することが示された。 以上の結果から、1)P450IA2の発現や誘導の阻害作用は重金属イオン共通のものではなく、鉛イオンが持つ特有の作用であること、2)P450IA(特にP450IA2)の誘導には、これまでに報告されていえるAh receptor依存的な機構のほかに、Ah receptor非依存的な機構が存在する可能性が示唆された。
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