Research Abstract |
ユークリッドの小著『図形分割論』はそのギリシア語原典は失われてしまったが,アラビア語訳がアッ=シジュズィーの著作の中に含まれていることを1851年ヴェプケが発見した。今までなされてこなかったそのアラビア語写本(Paris,Bibliotheque nationale, Fonds Arabe,2457,53b-55b)に基づく著作分析を行い,合わせて日本語訳を試みた。具体的には次のことを行った.まず,ユークリッド『図形分割論』に始まる図形分割という伝統が近代にいたるまであったことを伝承史という点から跡づけた.これに関してはすでにアーチボールドの詳細な研究があるが,それを近年発見された資料などを用いて補った.また伝承史上,ヘロンは実用性を重んじ近似解を求めた点で,またアブル・ワファーは立体にまで分割を拡張した点で特異であることを明らかにした.内容に関しては,命題を一つ取り出し,伝承史の中で比較検討を行い,アラビアあたりでいくらかの改作があったことを指摘した.またギリシア数字の精華である面積付置が『図形分割論』の重要なテーマの一つであることを明らかにした.そして,その著作は『原論』を読んだ後の練習問題用に書かれたのではないかという仮設を提示した.また原典に基づく仏語訳,その仏語訳に基づく英語訳があるが,日本語訳はここで初めてなされたものであろう.以上の研究によって,ユークリッドの著作の全体像を打ち立てるという大作業がわずかであろうが促進されることと信ずる.なお本研究の成果の一部は,平成7年度の神戸大学国際文化学部研究紀要『国際文化』に掲載予定である.
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