Research Abstract |
本研究の目的は,初心者が仕事の熟達化過程において,獲得する知識,技能とその構造の変化を明らかにすることである.第一に,仕事場面における現実の認知活動と,それを支える外的な支援(他者,道具)の構造を明らかにした.第二に,活動を支えている知識や方略などを明らかにした.第三に,初心者と熟達者の処理過程や知識構造の差異,他の仕事への転移を検討した. 飲食店や販売店などのアルバイトをおこなっている大学生54名に対して,自己報告,フィールド観察,インタビューに基づいて,新しい職場に入った初心者が,訓練を受け,仕事に熟達化していく過程と獲得された技能やや技能の構造を検討した.指標は,技能に関しては,速さ,正確さなど,知識に関しては,カテゴリ的知識,スクリプト的知識の量や構造などであった. 熟達化による知識や技能の獲得とその構造の変化の過程は,大きくつぎの3段階に別れた. 1.知識・技能の集積:熟達者と学習者が一組になり(従弟制),コーチングとフィードバックにより学習が徐々に進行する.また,学習者は,熟達者や道具の支援を得ながら,周辺的な仕事(片付けなど)から参加する. 2.知識・技能の構造化:学習者の意図的な練習や暗記によって,必要な事柄(例:メニュー)や手順(例:オーダーのスクリプト)を覚えたり,要領を得たりする.そして,スキルの自動化が進み,高原状態に達する.また,類似したスクリプトをもつ仕事間には,学習を促進する正の転移が生じる. 3.知識・技能の状況に応じた調節:学習者は,自分のうまくいかない点に関して,熟達者の技能を観察学習によって取り入れる.また,スキルの自動化によって余裕が生まれ,自分なりの工夫ができるようになる.
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