Research Abstract |
1.“Journal of Aesthetic Education"誌のバックナンバー中から芸術教育の基礎理論に関わる論文を抽出し、通覧した結果、R.A.Smith,B.Reimer,M.J.Parsons等の論者によって「『美的認識』論による芸術教育理論」と総称すべき理論傾向が1970年代初頭から現在にかけて確立されて来たことがあらためて確認された。 2.それらの諸論文の参考文献、および同誌の書評欄を手掛かりに、上記の理論傾向の根拠とされる文献の収集を行った。その収集および分析は現在も継続中であるが、主要な理論的根拠としては、シンボリズムおよび分析哲学の影響の強い現代英米の美学と、近年、発展の著しい認知心理学の成果とが挙げられる。 3.今年度は特に前者の思想的源泉と目されるE,カッシーラーの哲学がどのように受容されているかに焦点づけて分析を行った。その結果、上記論者たちはカッシーラーの「シンボル」概念による人間の精神的営みの多様性、「世界の数多性」という視点に基づいて、多様な世界認識の一様式として芸術活動の(従って芸術諸教科の)自律的地位をカリキュラム内に確立しようとする、という基本的構図が明らかになった。その反面、彼らにおいてはカッシーラーの哲学が本来持っていた、カント的二元性(「現象」と「物自体」、「感性界」と「叡知界」)の克服という実践的動機は捨象され、或いは芸術諸教科の自律性を侵すものとして排除されてしまい、認識論的文脈への限定化・単純化の上に理論構築がなされていることも明らかにされた。(この点に関しては、裏面記載の論文にて詳述した。) 4.このような認識論的文脈への限定化・単純化が、芸術教育の意義を矮小化しかねない問題性をはらむことについては、別論文において、さらに思想史的検討を通じて指摘すべく、現在執筆中である。
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