Research Abstract |
平成6年度1年間に亙る研究実績に付いて述べる.本研究は,様々な分野に固有の複雑さの概念を統合的にとらえる情報力学の研究を発展させ,それを用いて,非可換系における通信理論の基礎的研究を推進することを主な目的としており,そのために,本研究では,解析的,特に函数解析や確率解析の手法を用いてきている.本研究における“情報力学"とは、系の“情報(複雑さ)"と“力学"という2つの基本的概念からなっており,これをベースとして光通信の厳密な数理科学的な研究を行うためには,光の量子性を考慮し,量子力学系における通信理論(量子通信論)の定式化が必要となる.本研究ではそのために,相互エントロピーと量子チャネルの定式化を行い,減衰過程の光チャネルの数学的表現を情報力学の立場から,より汎用性のあるものに書き換えることを行い,次に示すような研究実績をあげてきた. (1)情報力学の基礎である状態その自身に関する複雑さと,入力状態と出力状態または入力状態とチャネルによって定まる伝達された複雑さとを光通信過程の数理的定式化に適用する研究を行った.たとえば,我々が既に定式化してあった減衰過程の光チャネルを情報力学的立場から見直し,これを用いて,多重減衰過程における情報伝送の効率を調べた. (2)複雑さのひとつの表れである相互エントロピーを用いてチャネルと変調方式の効率を定め,これより,(1)と同様に,多重減衰過程において平均相互エントロピーを計算することによって情報伝送の効率を調べる研究を行った. (3)光状態をチャネルを通して送ったとき,入力状態の有する情報が出力系に正しく伝えられた量を,情報力学の2つの複雑性の一つの表れである量子系のKSエントロピーを基に計算し,通信の効率を調べた.
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