Research Abstract |
堆積物表面の侵食過程に底生物群がどのような影響を与えるのかを野外で定量的に観察するために,水路を用いた装置を設計し作成した.海底の堆積物は生物による影響とさまざまな物理化学的営力との相互作用の結果つくられていくが,これを実験室で再現するのは容易ではないので,野外での観察が重要なのである(Amos et al.1992,Maa et al.1993).このような仕事は,沿岸での堆積粒子の運搬と底生生物の分布を理解するためにも重要である(Nowell et al.1981,Rhoads and Boyer 1982).調査は浜名湖の1メートル以浅の数点で行った. 湖底に置く水路を透明アクリルで作った.水路の中は,水中ポンプで水流が起こせるようにした(Scoffin 1968,Newmann et al.1970に基づく).この水路の内側と外側で,水流によって運ばれる粒子を,水を濾過して得たサンプルと赤外線粒子感知器を用いて測定した.水サンプル中の堆積物は濾過し秤量し,走査型電子顕微鏡で観察した.粒子の動きを観察したり流速を測定したりするのには,ヴィデオカメラを使用した.堆積物表層のサンプルを採取し,マクロフォーナ,メイオフォーナ,珪藻を定量し,堆積粒子の粒径分布を測定した.さらに湖底表層の堆積物を実験室に持ち帰り,マクロフォーナによる堆積物表層の擾乱を観察し,写真撮影した. 研究の結果は,単一の分類群では懸濁堆積物濃度(suspended sediment concentration)の変動のすべてを説明できるわけではないこと,測定して物理パラメータ(試料採取時の水深,粒径あるいは流速)よりも,いくつかの個体数の多い分類群あるいは分類群の組み合わせのほうが懸濁堆積物濃度との相関性が高いことを示唆する.例えば,線虫類が特に多い場所では懸濁堆積物濃度は高くならないのだが,これは線虫類の出す粘液が堆積物の粒子どうしを接合させるためだろう.また,ある1つの分類群の個体数と懸濁堆積物濃度との間の相関は低いが,複数の分類群を含めた個体数の主成分分析の第1因子と懸濁堆積物濃度との相関は良い.それゆえ,ある群集の中で,個体数のより少ない分類群は,個体数の最も多い分類群の効果を低下させるよりはむしろ強めると思われる.例えば,線虫類のみからなる集団よりも,多くの線虫類に棲管を持つ小型多毛類,介形虫,緩足類そして二枚貝の幼生が加わった群集のほうが,より低い懸濁堆積物濃度と随伴する.
|