Research Abstract |
橋頭位にケイ素を含む安定なデュワ-アントラセンの合成においては,ケイ素上にかさ高い置換基を導入した前駆体の設計が鍵となる.本研究では橋頭位のケイ素上にt-ブチル基を有する9,10-ジヒドロ-および9,10-ジクロロ-9,10-ジシラアントラセンの合成経路を確立した.すなわち,o-ジブロモベンゼンをリチオ化し,トリクロロシランと反応させてジ(o-ブロモフェニル)クロロシランを合成し,このケイ素上にt-ブチル基を導入し,さらにジグリニャ-ル試薬に変換した後,t-ブチルジクロロシランとカップリングさせて,9,10-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9,10-ジシラアントラセンを得た.さらにケイ素上の水素を塩素化し,9,10-ジ-t-ブチル-9,10-ジクロロ-9,10-ジシラアントラセンを合成した.今後の計画では,ジヒドロ化合物については遷移金属触媒による脱水素反応で,またジクロロ化合物についてはアルカリ金属によるカップリング反応によってデュワ-アントラセンに誘導する予定である. これに関連して,ケイ素上にイソプロピル基を有するcis-ジベンゾ[c,h]-1,6-ジシラビシクロ[4.4.0]デカ-3,8-ジエンの合成を行った.この化合物はX線結晶構造解析によって,橋頭位のケイ素-ケイ素結合距離が2.327(1)Åであることがわかった.これはこれまでに報告されている最も短いケイ素-ケイ素結合に属する。これはケイ素-ケイ素結合が比較的短い2個のo-キシリレン鎖によって架橋されているためと考えられる.また,この化合物は非常に低い酸化電位を示し,これを反映して紫外吸収スペクトルにおいて長波長シフトを示すことや,テトラシアノエチレンと電荷移動錯体を形成することを見出した.また,この電荷移動錯体を結晶として単離し,X線結晶構造解析によってサンドイッチ型のスタッキングをしていることを見出した.
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