Research Abstract |
近年,有機化合物の電導性に興味が持たれるようになり,芳香環に共役した複数の硫黄置換基を有する化合物が,有機電導体のドナーとして有効な働きをすることが見出されている。また,ビス(エチレンジチオ)テトラチアフルバレン(BEDT-TTF;1)のラジカルカチオン塩は、最もよく知られた有機超伝導体であり,複数のエチレンジチオ基を有する芳香族化合物やその関連化合物については,その物性についての興味が持たれる。 先に,塩化テルル(IV)を用いたエチレンジチオアセタールの対応するエチレンジチオ縮合環芳香族化合物への環拡大反応について報告しているが,この反応を利用してピラセンから誘導した1,5-ピラセンジオン-1,5-ビス(エチレンジチオアセタール)を塩化テルル(IV)と反応させることにより,目的のドナーであるビス(エチレンジチオ)ピラシレンを合成した。 支持電解質にテトラ(n-ブチル)アンモニウムトリヨ-ジドを用いて,ビス(エチレンジチオ)ピラシレンの定電流密度電解酸化(4〜8μA/cm^2)を行うと,陽極上に二次元的な電導性を有する黒色のラジカルカチオン塩が析出した。このようにして得られたトリヨードアニオンとのラジカルカチオン塩は,二次元的な電導性を示す結晶構造を有し,有機超電導体としてよく知られているBEDT-TTFのトリヨード錯体と同様(κ-相)の結晶構造で,また,これはTTF骨格(またはその片割れ構造)を含まない最初の例であることがわかった。同様に,電解析法により,種々の入手可能な無機イオンのアクセプター(C1O^-_4,BF^-_4,PF^-_6,IBr^-_2,ReO^-_4,AuI^-_2など)とラジカルカチオン塩を合成し,得られた単結晶塩についてX線構造解析を行い,各々の結晶構造の違いについて詳細な比較検討を行った。また,得られた単結晶塩の各結晶軸における電導特性測定し,結晶構造と電導性との相関関係を調べた。
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