Research Abstract |
寒天支持型脂質二分子膜(BLM)に感応素子として抽出試薬を包埋し,金属イオンとの錯形成に基づいたイオン透過性の変化について観測した.また,この変化を理解するために,試薬を含む脂質層中への金属イオンの抽出を行い,原子吸光光度法によって定量した. (1)キレート抽出系 キレート抽出試薬として知られる1-ニトロソ-2-ナフトール(NN)と銅イオンとの錯形成をモデルに実験を行った.NNを含む脂質層中への銅イオンの抽出は1分で平衡に達し,錯体の安定度から予想される抽出量とほぼ一致した.NN包埋寒天支持型BLMのイオン透過性は,試料溶液の銅イオン濃度の増大に伴って増大し,EDTA添加によって銅イオン添加前の値に減少させることができた.膜への印加電圧の向き,支持電解質の種類や濃度によってイオン透過性の変化の大きさは異なった。これらの結果からNNを感応素子とする抽出試薬包埋BLMにおけるイオン透過性の変化は銅が負の電荷を持つ塩化物錯体としてNNによって膜中を輸送されることによるものであるという知見を得た. (2)イオン対抽出法 トリ-n-オクチルメチルアンモニウムイオン(カプリコート)とカドミウム塩化物錯体のイオン対形成をモデルに実験を行った.カプリコートを含む脂質層中へのカドミウムイオンの抽出は2時間を経過しても平衡に達せず,カプリコートの量から予想される抽出量の1/10程度であった.カプリコート包埋寒天支持型BLMのイオン透過性はカドミウムイオンの添加によって印加電圧の向きに関係なく増大したが,一定の値とならず時間経過に伴って増大し続けるものだった.これは抽出結果とも一致する.この遅い応答はBLMの表面電荷の影響と考えられる. 以上の結果については日本分析化学会北海道支部1995年冬季研究発表会において報告し,第56回分析化学討論会および1995環太平洋国際化学会議において発表予定である.
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