Research Abstract |
金属を分離・精製するために用いる錯体生成反応では、金属イオンに対する選択性を向上させるため、配位子の構造を規制することによるイオン半径の認識能の発現・向上が必要と、以前よりの研究で明らかにしてきた。しかし、上記のような配位子を用いる場合に生成定数の低下が見られることが欠点である。しかし、大きなキレート環効果を生じさせるように配位子を設計することで、選択性を欠くことなく生成定数の大きな配位子を設計することができると考えられる。このため、従来の配位子のような2座ないし3座配位より多い配位原子を持つ配位子が必要となる。このような観点から含窒素複素環六座配位子である、H_2BBPEN=N,N'-Bis(2-hydroxybenzyl)-N,N'-Bis(2-methylpyridyl)ethylenediamineを合成し、相互分離の困難な希土類金属イオンを用いて、配位子の選択性を溶媒抽出法によって検討した。用いたH_2BBPENによる溶液内錯体生成反応の報告はなく、従って解析上不可欠な酸解離定数を求め、次に錯生成能の指標となる抽出定数(log K_<ex>)を求めた。抽出実験の際、従来とは異なり、各々電荷を有する配位子を用いた混合配位子抽出系を用い、更なる選択性の向上を追求した。 本研究においては、H_2BBPENと1,3-diphenyl-1,3-prpopanedion(Dibenzoylmethane:DBM)を用い有機溶媒(クロロホルム)に希土類金属イオン(La,Eu,Lu)を抽出した。H_2BBPENの酸解離定数はpK_<a3>=3.32,pK_<a4>=4.89と決定し、クロロホルムと水相間の分配定数は10^<3.87>と分かった。また、混合配位子系を用いたLa,Eu,Luの抽出定数(本系において、Kex=[M・BBPEN・DBM]・[H+]^3/[M^<3+>]・[H_2BBPEN]・[DBM]と定義する。)はそれぞれ、-19.9、-17.2、-16.7と求められ、抽出定数の差である分離係数(SF)はSF(La-Eu)=2.7,SF(Eu-Lu)=0.5であり、β-ジケトン類と同程度であった。 本研究では、含窒素複素環六座配位子を用いた錯体生成反応の基礎的データを得ることができた。加えて、H_2BBPEN系の配位子は多数の誘導体の合成が容易で、今後、選択性の向上が期待できる優れた配位子であることも分かった。
|