Research Abstract |
化学肥料・農薬を施用する以前の農業,すなわち今日でいう有機農業を行っていた当時は,農業生態系に病害虫を含む様々な動植物が生息していた.作物はそれらと相互に関連しながら生態学的地位を高めるように人為的な管理がなされていたと考えられる.水稲栽培においても,化学肥料・農薬の施用は日常化し,水田生態系の多様性は失われ,不安定性が増大してきている.今後,生態系活用型農業を推進して行く上で,水田のもつ生物相保全機能を作物学的,生態学的見地から明らかにする必要がある.そこで,本研究では有機栽培を5ヵ年継続している水田において水田生態系を構成する動植物相・微生物相を調査し,その相互関係を解析した. 試験を行った1994年は雑草,病虫害の発生は少なく,登熟歩合の高かった慣行区の収量は588g/m^2となり,有機・無農薬区は登熟歩合が低く,他の区と比較して収量はわずかに低下した.水稲個体群の動物相は,ほとんどの種類で有機・有農薬区の全個体数が少なかった.優占種はセジロウンカ,ヒメトビウンカ,ツマグロヨコバイ,ユスリカ・ブユ類,ハエ・アブ類,クモ類,ハチ類およびアブラムシ類であった.優占種の中ではセジロウンカおよびツマグロヨコバイの殺虫剤全般に対する感受性が高かった.ウンカ・ヨコバイ類に対する天敵類の抑制効果は認められなかった.田面水中および土壌中の動物相の優占種は,カイミジンコ,タマミジンコ,ケンミジンコ,ユスリカ幼虫およびイトミミズであった.優占種の農薬に対する感受性の有無は明確でなかったが,1994年のミジンコ3種の個体数は薬剤を散布した区で明らかに少なかった.また,優占種以外の微小動物の個体群は,殺虫剤を使用した有機・有農薬区,慣行区では有機・無農薬区の50%以下に抑制された.水田土壌中の微生物相は,糸状菌,細菌及び放線菌のすべてにおいて有機・無農薬区が高く推移する傾向にあった.
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