Research Abstract |
慢性アルコール投与後の肝切後DNA合成が,雌ラットにおいては雄ラットよりも強く抑制されることが知られており,その機序解明のためポリアミン代謝を検討した.6週齢のWistar系雄性および雌性ラットをそれぞれ2群に分け,一方には総カロリーの36%をエタノールで置換した液体飼料で,他方には等カロリーのコントロール液体飼料で6週間pair-feeding後,肝部分切除を施行し,ポリアミン代謝を測定した.律速酵素であるornithine decarboxylase(ODC)の肝切後の誘導は,慢性アルコール投与の影響は見られなかったが,雌ラットの方が高値を示した.spermidine/spermine N^1-acetyltransferase(SAT)活性は肝切前,すなわち慢性アルコール投与6週目において,雌雄ともにアルコール投与群がコントロール群に比し高値を示し,雌雄の比較ではそれぞれの群において雌ラットの方が有意に高値を示した.肝切後4時間目のSAT活性も,アルコール投与群では雌ラットの方が有意に高値を示した.肝内ポリアミンのうち有意な変化がspermidine(SPD)とspermine(SPM)において観察された.SPDは肝切前と肝切後10時間目の雌ラットにおいてのみ,アルコール投与による低下が見られた.SPMは肝切前,肝切後4および10時間目において,雌雄ラットともアルコール投与による有意な低下が観察されたが,雌ラットの方が低下の程度が大きく,肝切後10時間目のアルコール投与群での雌雄を比較すると,雌ラット肝のSPM量は雄ラットに比し有意に低値を示した.以上より慢性アルコール投与による肝切後肝再生抑制効果に雌雄差が存在する機序のひとつとして,ポリアミンのアセチル化酵素であるSATの誘導に雌雄差があること,さらにSAT誘導に伴う肝内SPDとSPM量の低下が深く関わっている可能性が示唆された.
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