Research Abstract |
胆汁酸はホルボールエステルと類似した作用をもつ内因性tumor promoterであることが報告されているが,胆汁酸代謝の中心である肝細胞の再生増殖に対する影響は不明である。そこで本研究では,μMオーダーの比較的低濃度の胆汁酸が肝細胞DNA合成にどのように影響するかを,膜イノシトールリン酸代謝の面から検討した。 初代培養ラット肝細胞において,10〜100μMのDCAは発癌剤(MNNG)や紫外線により誘導される修復DNA合成を抑制した。一方,insulinやEGFにより誘導された複製DNA合成をさらに促進した。肝細胞の膜イノシトールリン酸代謝について検討すると,10〜100μMのDCAを添加すると,10秒後にはホスファチジルイノシトール1リン酸(PIP)が増加し,続ずいてホスファチジルイノシトール2リン酸(PIP_2)が増加した。2分後にはぼぼplateauに達し,control値のそれぞれ約2倍,1.5倍となった。胆汁酸の種類別で検討すると,PIP,PIP_2の増加作用は細胞障害性の強いDCAでCA,CDCAに比べて強かった。しかし,細胞障害性の少ないと考えられるUDCAでもPIP,PIP_2の増加作用が認められた。一方,ホスファチジルエタノラミンやホスファチジルコリンのリン酸化は胆汁酸添加により変化しなかった。 以上より,肝細胞のDNA合成に対する胆汁酸の作用機序の一つに,膜イノシトール代謝を介した情報伝達系の関与が示唆された。
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