Research Abstract |
肝硬変では、肝の線維化が進行して肝小葉の改築をきたすが、血清学的には高免疫グロブリン血症が認められる。近年、肝線維化にトランスフォーミンググロースファクターβ(TGF-β)の関与が明かとなり、肝細胞壊死に伴い、Kupffer細胞をはじめとする肝類洞壁細胞においてTGF-βの産生が亢進し、その結果、伊東細胞さらには線維芽細胞等によるコラーゲン、フィブロネクチンなどの細胞外マトリックスの産生増加をきたし、線維化が進行すると考えられている。また一方、TGF-βは、免疫系にも多彩な作用を有し、一般にT細胞、マクロファージ、NK細胞、さらにB細胞のいずれの細胞系に対しても抑制的に働くことが知られている。そこで、われわれは、肝でのTGF-β産生の亢進が免疫系に影響する可能性を想定し、小動物用微量持続注入ミニポンプを用いて活性型TGF-βを肝臓内に注入し、免疫グロブリン産生におよぼす影響について検討した。 実験動物には、6週令、雌性の近交系マウスC3H/HeN、C57BL/6、A/Jを使用した。ヒト血小板由来活性型TGF-β(50ng/0.2ml)あるいは生理食塩水0.2mlを、浸透圧ミニポンプ(Alza社製alzet^R,model 2001)にて、肝内および腹腔内に持続注入し、持続注入開始後7日目のマウス脾細胞のIgM,IgG,IgA分泌細胞をプロテインAプラーク法にて測定し、脾細胞10^6あたりの免疫グロブリン分泌細胞数を比較した。 TGF-βを肝内に持続投与したマウスでは、生食肝内投与マウスに比べ、脾細胞のIg産生は亢進し、この現象はC3H/HeN、C57BL/6、A/Jのいずれのマウス種においても認められた。一方、TGF-βを腹腔内に持続投与した場合には、脾細胞のIg産生は、生食投与時と比べて差はなく、Ig産生の亢進は認めなかった。なお、TGF-β肝内注入においても、肝の繊維化は惹起されなかった。 従来より、TGF-βは肝再生あるいは肝線維化に関与していることが指摘されているが、TGF-βを肝内に投与して免疫応答の変化を検討した報告はみられない。また一般的にTGF-βは、免疫細胞に抑制的に作用することが知られているが、われわれが浸透圧ミニポンプを用いて活性型TGF-βを肝内に持続注入し、脾細胞の免疫グロブリン産生を検討したところ、脾細胞の免疫グロブリン産生はむしろ亢進するという興味深い結果を得た。以上、活性型TGF-βを直接肝内に注入してα_2-マクログロブリンなどの血中阻害物質の影響を除いた条件では、脾臓の免疫グロブリン産生が亢進することが明らかとなった。この脾臓の免疫グロブリン産生の亢進は、肝実質細胞あるいは非実質細胞に由来する物質により誘導された可能性が考えられ、今後の研究課題としたい。
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