Research Abstract |
生体と空気は透磁率が等しいため,磁気計測はセンサーからの絶対的な位置を計測でき,心電気現象を解析する上で従来の電位計測より有利と考えられる.そこで生体磁気計測装置により心室興奮初期の心起電力の移動双極子を推定し,正常心室伝導と,心室性期外収縮(PVC)ならびにWPW症候群(WPW)を比較した.また先天性心疾患では造影所見と比較した.SQUID型37チャンネル生体磁気計測装置SMI-1003を用いて,磁気シールド内においてセンサーを数カ所移動させ,QRS開始から1msec毎に心室興奮により生じる磁気を記録し,Sarvasの球モデル式に従い,同様の等磁線図を示すようなsingle dipoleを逆方向解により求め,胸郭上に表示した.PVC起源ならびに副伝導路の位置は,体表面電位図から判定した.正常洞調律の双極子の起点は胸骨左縁第3-4肋間付近に現れ,起電力の方向は右ないし右下方を示した.この双極子の起点はやや右前方から下方に移動し,起電力の方向も徐々に下方に転じた.10-20msecでは双極子は左方から左後方へ移動し、起電力の方向も下方から左方や左後下方に徐々に転じた.このように心磁図法によりQRS初期における各瞬時の移動双極子の軌跡と起電力の方向の空間的表示ができ,この結果は中隔左室側から興奮が始まり右室に伝搬しながら中隔を下行するという従来の基礎実験結果と一致していた.右室側壁起源のPVCの双極子の起点は胸骨右縁に出現し,その移動範囲は狭く,起電力の向きは正常と逆の左方を向き,左室心尖部起源のPVCでは,初期双極子の起点は正常より左側の左前胸部に位置し,起電力の向きは下向きを示し解剖学的にも妥当な双極子が推定できた.右室側壁に副伝導路をもつWPWの双極子分析では初期双極子の起点は正常より右側で前胸部正中に出現し,その起電力の方向は正常と逆の左方を向き,その移動の範囲は狭く密集していた.左前胸部に副伝導路をもつWPWでの初期双極子は左前胸部中央上部に出現し,その軌跡は密集し,起電力は下方を向いて表示された.後部中隔に副伝導路をもつWPWでは初期双極子は前胸正中部に始まり,起電力は左方を向いた.心内構造異常を伴う小児では,右室の大きい心房中隔欠損症,右室の小さい三尖弁閉鎖症,心室の位置が逆の修正大血管転位症いずれも推定双極子の軌跡は心室造影の中隔の位置に一致し,起電力の向きもそれぞれの心室位から妥当と考えられる方向を示した.以上のように正常例,PVC,WPW,心内構造異常児ともに,磁場の測定から心起電力の移動双極子を推定し,その軌跡と起電力の向きを実際の胸郭または心室造影像に投影,空間的に表示し,解剖学的電気生理的に妥当な結果が得られた.
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