Research Abstract |
気分障害の病的遺伝子を,臨床薬理学的に変化の見られるβ_1アドレナリン受容体(AR)に注目し,さらにその情報伝達系への生化学的病態変化を,β_1AR遺伝子の多型性によるものと仮定した。これを証明するために,対象白血球より得たDNAのβ_1AR構造遺伝子領域を,5'GC-clampを付加したセンスプライマーを用いた,PCR(polymerase chain reaction)法により増幅し,温度勾配電気泳動(temperature gradient gelelectrophoresis;TGGE)法により遺伝子変異を検出する。変異を認めた場合,変異点を決定する。また得られたβ_1AR遺伝子多型を,患者と健常者,遺伝負荷の有無等に分類し,統計学的に検定する。 対象は,本研究に同意を得たDSM-III-Rの気分障害と診断された患者5名と健常ボランティア3名とした。気分障害患者と健常者の末梢血から得られたDNAをPCR法により増幅しTGGE法により遺伝子多型を調べたところ,感情障害患者群には移動度の異なる断片は認めなかったが,健常者1名に移動度の異なる断片を認めた。すなわち,このサンプルには遺伝子多型が存在すると考えられるため,非対称PCRによる直接シースエンス法により変異点を決定した。β_1AR遺伝子の951番目がA(CTA)→G(CTG)と点変異が確認された。しかし,この翻訳されるアミノ酸はどちらもロイシンであり,機能蛋白質としてのβ_1ARの構造に変化は認めないと考えられた。 本研究において対象となった気分障害の患者では,β_1AR構造遺伝子領域に明らかな遺伝子多型を認めなかった。今後,研究対象数を増やし,統計学的処理も含めて比較検討してゆく予定である。
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