Research Abstract |
抗精神病薬の長期投与にともなって出現する遅発性ジスキネジア(TD)については,これまでにさまざまな治療的試みが行われてきたが,いまだにその有効な対策は確立されていない。疫学調査の結果からはTDの発症に関与する危険因子がいくつか指摘されてはいるものの,必ずしもハイリスクな患者にTDが発症していないことから,TDの発症についてはそれに関与する固有の脆弱性をもつ患者の一群の存在することが考えられる。今回はこのTD発症に関連した固有の脆弱性を持つ患者を抗精神病薬投与以前に分子生物学的な手法により見いだすことを目的として,D2受容体遺伝子座位上にある遺伝子多型で,その意義が明かにされていない部位に焦点をあて,この部位とTD発症との関連についての検討を行った。対象は抗精神病薬服用歴があり,TDの有無・重症度に詳細な記録のある精神科患者50名と抗精神病薬服用歴のない医療関係に従事する正常対照者16名であり,精神科患者の診断内訳は精神分裂病45名,精神遅滞3名,感情病2名であり,TD発症者は23名,TD非発症者は27名であった。これら対象者の末梢血からDNAを抽出し,Sarkerら(1992)の報告にしたがって,11番染色体長腕上にあるD2受容体遺伝子座位のエクソン6を含む部位をPCRで増幅し,その産物を制限酵素NcoIで切断して,この部位の多型におけるアリール出現頻度と遺伝子型の頻度を調べ,これらを,精神分裂病群と正常対照群,およびTD群と非TD群で比較した。その結果,いずれの群間においても有意な差は認められなかった。今回の調査結果からは,D2受容体上のNcoIによる遺伝子多型は,TD発症の脆弱性に関連した多型ではないことが示唆されるが,対象症例数が必ずし十分とはいえないことから,今後さらに症例を増やして検討する必要性があるものと考えられた。
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