Research Abstract |
申請者らは、すでに、ヒトインスリン遺伝子のプロモーター領域に4ヵ所のcAMP反応性塩基配列(CRE)が存在し、c-JunがこれらのCREを介してインスリン遺伝子の発現やcAMP反応性を抑制する可能性について報告してきた。平成6年度は、 ♭1.まずc-Junの作用点について解析した。方法としてc-JunのDNA結合ドメインを欠失させた発現プラスミド(Δc-Jun)あるいはwild type c-Junの発現プラスミド(wt c-Jun)をヒトインスリンのプロモーターを連結させたCATプラスミドと共にハムスターのβ細胞株(HIT-T15)にトランスフェクションし、cAMPのインスリン遺伝子の転写活性に及ぼす効果について検討した。対照としてwt c-JunあるいはΔc-Junのかわりにβグロビンの発現プラスミドを用いた。その結果、wt c-Junをトランスフェクションした場合には、対照と比較してインスリン遺伝子の転写活性あるいはcAMP反応性は著しく抑制されたが、Δc-Junをトランスフェクションした場合、その抑制は対照と同レベルまで完全に解除された。従って、c-Junの抑制効果には、DNA結合領域が重要であることが明らかとなった。 ♭2.次にc-Junと同じファミリーに属し、ロイジンジッパー構造を有するc-Fos,Jun B,Jun Dについても、ヒトインスリン遺伝子の転写活性やcAMP反応性に及ぼす影響について検討した。その結果c-Fosはc-Junと同様に強い抑制効果を有したが、Jun B,Jun Dの抑制作用はc-Junやc-Fosに比して弱かった。これらの転写因子の発現量に及ぼすグルコース濃度の効果をHIT細胞を用いてノザン法で解析したところ、c-Junは培養液中のグルコースを除くことにより、著しい発現の増大を認めた。Jun Bもグルコース除去によりわずかに発現の増大を認めたが、c-Fos,Jun Dの発現量はグルコース濃度により変化を受けなかった。従って、低グルコース濃度に伴うインスリン遺伝子の転写抑制には、c-Junが最も重要な因子であることが予想された。
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