Research Abstract |
口腔癌の第一次予防のための基礎的データとして,パノラマX線写真を利用した判定基準を提示し,1968年から1990年の23年間の扁平上皮癌と診断され,初診時のオルソパントモグラムが保管されている口腔癌患者454例(下顎歯肉癌223例,舌癌155例,口底癌76例)と,1992年の4か月間に本学附属病院歯科放射線科でオルソパントモグラムが撮影された30歳以上の患者390例(腫瘍や嚢胞および炎症で歯や顎骨に著明な変化をみとめないもの)の口腔環境を比較分析した。 (結果)下顎歯肉,舌,口底癌および対照群における無菌顎患者の占める割合は,それぞれ12.6%(28/223),7.1%(11/155),19.7%(15/76),7.4%(29/390)であり,口底癌患者に無菌顎の占める割合が多く,有意差を認めた(x^2<0.005)。また,男性における骨指数は口底癌が最も高く,同年代の歯槽骨吸収状態と比較して著しく進行していた。下顎歯肉癌も口底癌と同様,対照群とは60歳代を除き有意差を認めたが,舌癌の骨指数については対照群と同様に,3部位の口腔癌の中で最も骨指数が低値であった。すなわち男性の口底癌と下顎歯肉癌患者の歯槽骨吸収状態は類似し,舌癌のそれは対照群と似通っていた。女性では60歳代の対照群が下顎歯肉および舌癌に対して有意差を認め,他年代でも口腔癌の骨指数が高い傾向であった。 以上より,口腔癌の発癌要因が口腔内といえども,発生部位により異なる可能性があることを示唆し,腫瘍の発生部位で発癌の刺激因子は異なると考えられた。特に口底癌は歯槽骨の吸収状況が同年代の歯槽骨と比較して著しく進行し,下顎歯肉癌とともに進行した歯周疾患は発癌の危険因子の一つであると思われ,口腔癌における第一次予防の第一歩は,歯周疾患進行の抑制と考えられた。
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