Research Abstract |
顎関節症は多因子性の疾患であり,咬合に起因する顎関節症患者でも,心理的要因が深く関わっていることが日常の臨床から容易に推測される.しかしこれまでの報告では,顎関節症患者の臨床症状と精神的ストレスとの関係は明らかにされていない.そこで本研究では,歯科治療時における精神的ストレスが,患者に及ぼす影響の特徴を検索し,精神的ストレスと患者の臨床症状との関係を明らかにすることを目的とした.被験者は,当科に来院した患者18名(男性9名,女性9名,年齢20〜62歳,平均34.6歳)で,歯冠修復の形成が必要な症例を用いた.実験は,高感度発汗測定装置を用いて,以下の治療等を行い,精神性発汗を経時的に記録・測定し,精神的ストレスの変化およびその程度を分析した.治療内容は,歯冠修復のために形成,印象および暫間被覆冠の装着とし,症例によっては浸麻および修復物除去を行った.また,治療中における体位の変化および術者との会話など,治療中の環境の変化についても検討した.その結果,以下のこしが明らかになった.1.被験者により,応答性,応答する処置内容が異なっていた.2.被験者の体位変化および会話に対応して高頻度(80〜100%)に応答が認められた.3.被験者は,応答頻度の低い群と高い群に分けられることが示唆された.4.姿勢変化および会話では,いずれの群でも同様に高頻度で応答した.一方,歯科治療については,応答性の低い群では,いずれの処置においても応答しなかった.以上の結果より,当教室で開発した発汗測定装置が患者の精神反応の測定に有用であることが明らかになった.また,患者には精神反応を惹起し易い者とそうでない者が存在し,さらに歯科治療の内容によってもその応答性が異なることが明らかになった.今後,顎関節症患者についても実験し,精神的ストレスと顎関節症との関係を明らかにしていく所存である.
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