Research Abstract |
全部床義歯補綴においては,義歯の維持・支持を床下組織に求めている.ところが,床下粘膜の厚さおよび骨表面の性状は,均一でないことが知られており,周囲と較べ粘膜が薄い部位や骨が鋭利な部位あるいは神経・血管の開口部などは,咬合時に強い圧迫を受け,疼痛・潰瘍・血行障害を生じることがある.なかでも,口蓋隆起部は種々の不快事項の原因になることが多く,臨床においては,同部位にリリ-フを施すことで対処している.しかし,このリリ-フ量の決定は,経験的に行なわれているのが実情である.リリ-フ量を定量的に決定するには,床下粘膜の厚さ・被圧縮性に関する情報が不可欠であり,従来より多くの研究者によって研究・報告が行なわれてきた.しかし,これらの方法は,操作の簡便性,測定精度などの点で問題を有している. 本研究は,Bモード超音波診断装置と小型荷重センサを組み込んだ実験義歯を用いて,床下組織の二次元断層像と咬合力をリアルタイムで測定・記録可能なシステムを開発し,このシステムを上下顎無歯顎者に用いて,1)最大咬合力下における義歯床下粘膜の沈下量の計測,2)口蓋隆起部における適切なリリ-フ量の検討,を試みたものである.その結果,以下の知見を得た. 1.口蓋隆起が認められない被験者において,各部位の粘膜沈下率は,上顎顎堤部で0.109〜0.118,口蓋側方部で0.080〜0.089,口蓋正中部および切歯乳頭右側部で0.127〜0.151,下顎顎堤部で0.165〜0.176であった. 2.口蓋隆起が認められない場合でも,口蓋正中部および切歯乳頭部におけるリリ-フの必要性が示唆された. 3.口蓋隆起が認められない場合の口蓋正中部および切歯乳頭部におけるリリ-フ量は,0.25mm程度で良いことが示唆された. 4.口蓋隆起が中等度のものは0.25〜0.50mm,強度のものは0.50mm程のリリ-フが,同部位に必要であることが示唆された.
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