Research Abstract |
糖尿病ラットの口蓋を対象として、義歯床を介して義歯床下組織に対して持続的圧力を加えた場合に、義歯床下骨組織に破骨細胞による吸収を惹起する閾値を病理組織学的に観察し、健常ラットの口蓋を対象とした場合の研究結果と比較することによって、糖尿病が義歯床下骨組織に破骨細胞による吸収を惹起する持続的圧力の閾値に及ぼす影響について検討した。 ストレプトゾトシンを用いて糖尿病を誘発した15週齢のウイスター系雄性ラット45匹の上顎臼歯に装着したメタル・フレームを利用して、可撤性の義歯床を臼歯部口蓋の左側に装着し、反対側を対照側とした。義歯床下組織に対して加える持続的圧力の大きさは0.05,0.10,0.20,0.30,0.40,0.50,0.60,0.70および0.80gf/mm^2の9種類とした。圧力の大きさは、二次元画像解析装置を用いて測定した義歯床の投影面積と義歯床を介して加えられる荷重量によって規定した。義歯床装着3日後に義歯床下粘膜ならびに義歯床の清掃を行った。 義歯床装着6日後に実験動物を屠殺して口蓋組織を採取した。採取した組織は、各実験動物毎に通法にしたがって第1および第2臼歯部において頬舌的な6μmのパラフィン切片を約60μm間隔で50枚ずつ作製し、ヘマトキシリン-エオジン染色を施して光学顕微鏡下で観察した。 破骨細胞あるいは吸収窩が観察された場合を骨吸収の認められた標本として、その標本数を各実験例の被検側および対照側毎に求めた。対照側の結果から1実験例の標本50枚中に骨吸収の認められた標本数は最大7枚であり、健常ラットの最大4枚に比較してやや多く観察された。被検側においては、0.60gf/mm^2以上の持続的圧力では、すべての実験例において破骨細胞による骨吸収が発現した。以上の結果は、健常ラットでは0.70gf/mm^2以上の持続的圧力が加えられた場合に、すべての実験例において破骨細胞による骨吸収が発現することが知られており、これと比較して、糖尿病は義歯床下骨組織に吸収を惹起する持続的圧力の閾値を下降させることを示唆するものである。
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