Research Abstract |
歯科臨床で日常的に使用される局所麻酔薬は,時に眠気や痙攣を生じる事がある。これは局所麻酔薬が,脳内γ-アミノ酪酸(GABA)_A受容体活性に影響を与えるために起こる可能性も考えられる。我々はアミド型の塩酸リドカイン(100μM)がGABA_A受容体・ベゾジアゼピン(BZP)受容体複合体に対する,GABA_A受容体作動薬の結合を10%抑制し,BZP受容体作動薬の結合を27%抑制する事を報告した。 今回は塩酸リドカインと局所麻酔効力・毒性及び構造の異なる,エステル型の塩酸プロカインとキノリン型の塩酸ジブカインが,GABA_A受容体・BZP受容体複合体に対する作動薬の結合に対して,どの程度の影響を与えるか検討した。シナプス膜画分をラット全脳より調整し,可溶化して脳シナプス後膜(GABA_A受容体・BZP受容体複合体)を調整した。結合実験はGABA_A受容体・BZP受容体複合体と[^3H]標識したGABA_A受容体作動薬の10nMムシモール,BZP受容体作動薬のInMフルニトラゼパムを用い,前者は30分間,後者は60分間2℃インキュベートした。 その結果,[^3H]ムシモールの結合量は1.24±0.02pmol/mg protein(100±1.4%)となった。100μMでは塩酸プロカインが91.5±5.8%まで低下し,塩酸ジブカインは91.2±4.9%まで低下した。拮抗薬ビククリンは51.1±6.0%まで有意に低下した。[^3H]フルニトラゼパムの結合量は0.21±0.05pmol/mg protein(100±2.4%)であった。100μMでは塩酸プロカインが63.5±3.6%まで有意に低下し,塩酸ジブカインは60.4±3.3%まで有意に低下した。拮抗薬フルマゼニールは0.9±1.3%まで低下した。100μMでビククリンもしくはフルマゼニールと塩酸プロカイン及び塩酸ジブカインを比較すると有意差を認めた。尚、結果は平均値±標準誤差で示した。統計学的検定はWillams-Wilcoxon型の多重比較検定を行い,危険率5%以下を有意とした。 以上から,局所麻酔薬は脳内のGABAやBZP受容体作動物質のGABA_A受容体・BZP受容体複合体への結合を抑制するが,その程度は局所麻酔効力・毒性及び構造の違いによる差が無く,その結合抑制の程度はGABA_A受容体・BZP受容体拮抗薬より少ない事が示唆された。
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