Research Abstract |
気道過分泌を起こしている慢性閉塞性肺疾患患者51例を対象に,その看護と去痰に関する問題点を明らかにするために,患者の自覚的な痰の喀出状態と,痰の生化学的な性状や曵糸性および線毛による移送速度との関連性について検討を行った。痰は,末梢気道から中枢気道,中枢気道から口腔へと2段階に移送されて喀出され,粘性痰喀出症例(以下粘性痰)では喀出困難度が軽度な検体が40%,高度な検体が60%であるのに対して,膿性痰喀出症例(以下膿性痰)ではすべての検体が塊状で切れがよく,痰の喀出が容易であるという結果を得た。自覚的な痰の喀出状態は,曵糸性との間に正の相関関係がみられ,大部分の膿性痰は,15mm以下と低値で,粘性痰においても,喀出困難度が高度な検体に比し,軽度な検体の方が,明らかに低い傾向を示した。痰の末梢気道から中枢気道における線毛による移送状態の判定のために,線毛による移送速度(MTR)を測定した。MTRは両群ともに個体差が大きく,有意差はみられず,痰の喀出困難度との間にも一定の関連性はみられなかった。これらから,痰の喀出困難度と線毛による移送速度に関係する物理学的性状は必ずしも同じではないことが推定された。また,生化学的分析により,粘性痰と膿性痰では,その物理学的性状に関与する物質が異なることが示唆され,これらのことを考慮して去痰療法を行う必要があると考えられた。痰のような流動体の曵糸性には,粘性や弾性と同様にRMPのような高分子性物質が関与するが,この性質が膿性痰で粘性痰より低いことから,分子量の大きさや化学構造以外に構造の安定性が曵糸性に密接に関与しているとも考えられた。曵糸性の測定は粘性や弾性などの他の物理学的性状の測定に比し簡便に実施できるために,ベッドサイドにおける痰の喀出状態を判定する指標としては有用と考えられ,この臨床的応用については今後さらに検討する予定である。
|